Sunday, March 12, 2006

イギリス陶芸事情⑥

高架下のアーティストたち

話は逆行するが、ロンドンに到着して4、5日経ち、時差ぼけが取れつつあったころ、ギャラリーのオーナーの紹介で、薪窯の陶芸家と会うことになった。彼の名前は、ジョン・バッラー。数年前に大学を卒業したばかりの、若い陶芸家だ。日本やアメリカのやきものに興味があるという。

冷たい雨の降る午後、私が滞在している友人宅に、彼は時間通りに来た。ジョンと、友人と、私の3人で、温かいミルクティーを飲みつつ、他愛もない話しに花が咲く。友人は在英30年超のアメリカ人、私は在米日本人、彼にとっては、何とも不思議な輩だろう。

彼はロンドンのダウンタウンに、スタジオを持っている。高架下にスタジオ・コンプレックスがあって、たくさんのアーティストがスタジオを持って制作活動をしているらしい。今日もそこから、マウンテンバイクでここまで来たようだ。

「高架下のスタジオ」にちょっと興味があったので、次の日友人と一緒に、ジョンを訪ねて行くことにした。

友人宅から歩いて20分ぐらいで、その住所に着いた。
なるほど、鉄道の高架下だ。



大きな鉄の扉をノックすると、中からジョンが出てきた。

中は思ったより広く、迷路のようになっている。最初2階に案内されると、アーチの形をした高い天井が現れた。窓からは自然光がやわらかく差し込んでくる。昔通っていた大学の、美術教室に似ているような気がした。



中2階には、公共のスペースのホールがあり、オープニングパーティーやフィルムの試写会などが頻繁に行われるらしい。

そして1階に下りると、少し天井は低くなるが、白い壁で仕切られた、もっとプライバシーの保たれたスタジオが並んでいた。ジョンのスタジオスペースはそこにあった。8畳?ぐらいの小さなスペースいっぱいに、ロクロと、テーブルと、焼かれた作品の数々がひしめく。



高架下の小さなスペースであっても、物価の異常に高いロンドンでは、決して安い物件ではない。個人のスペース代、管理費、電気水道合計で、月£200(約4万円強)かかるそうだ。

窯はどこにあるの?と聞くと、彼の出身地、イギリス南部地方のサマセット州にある、古い農家の敷地を借りて、穴窯を作ったのだという。年3回、焼成する。窯の写真を見せてもらうと、信楽の穴窯のような形、でもなぜか煙突が2本、窯の両腹から上に向かって突き出ている。焼成を見たわけではないので、何ともいえないが、火前も奥も、窯変がうまく取れるらしい。

いつか広い土地を買って、そこにスタジオと窯を築いて、自分の作品で生活していけたら、とジョンは言う。

どこか閉塞感を感じざるを得ないイギリス陶芸の未来は、彼のような、よく働く若いアーティストが、その可能性を握っているのかもしれない、と思った。

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