Monday, July 25, 2005

陶器の町 シーグローブ

2005年6月から、ノースキャロライナ州・シーグローブという町で暮らしている。

日本ではあまりその存在を知られていが、シーグローブはアメリカでもかなり珍しい陶器の町だ。町のメインストリートにはたくさんの陶器ショップの看板が掲げられ、観光客やバイヤーが買い付けに来る。現在シーグローブでは、120軒以上の陶芸工房が集まり、手作りの陶器や生活用品を作り続けている。

シーグローブの情報:http://www.discoverseagrove.com/index.html

シーグローブは「産業としてのやきもの」によって成り立っているわけではない。むしろ、個人の陶芸スタジオが寄り集まって商売をしている、と言う感じだ。ある陶芸専門のアメリカ人学芸員はこの辺りを「日本の益子のような町」と表現していた。

日本陶芸の特徴は、何と言っても窯業地の存在であり、教育(窯業研究所、後継者育成事業、師弟制度など)からビジネス(製陶業、卸業)までがワンセットとなった産業形態である。窯業の中の「役割」を、さまざまな人々や会社が分担している。

また学校等で陶芸を学んだ若い人材が、更なる経験を求め窯業地にやって来て、難なく受け入れてもらえたりすることも多い。それが、決して大きくはない日本の中に数多く存在しているから、日本の窯業は凄いのである。

話をアメリカに戻すと、アメリカ合衆国南部・ノースキャロライナ州はもともと工芸が盛んな土地で、陶芸、木工家具、織物、かごなどの様々な生活必需品が作られていた。陶芸に関しては、18世紀にイギリスやドイツから移ってきた陶工が粘土を発見し、人々の生活に必要な陶器を作ったのが、今に繋がるやきものの町としての始まりのようだ。

19世紀後半になり工業化の波に押され、また禁酒法や大恐慌による大打撃を受け、多くの手づくり陶器が各地から姿を消しても、シーグローブでは手づくりの陶器生産が細々と続いていた。 要するに、産業革命から取り残された、と言えるかもしれない。

「大量生産・大量消費」を基本とした資本主義を貫き通してきたアメリカ合衆国である。それに乗り遅れた手作り陶器の存在が、だんだん零細化したことは容易に推測できる。 手工芸、またはクラフトとしての陶芸は、アメリカではなかなか日の目を見ない。コレクターやお金持ちの道楽であるアートビジネスとは、全く役割が違うからだ。

そんな資本主義大国アメリカに残る、手作り陶器の町シーグローブは 、ちょっと変わったアメリカの片田舎を垣間見ることができる、不思議な町だ。老舗から若い陶芸家まで、さまざまな人々がこの町で制作をし、生活をしている。アメリカでも珍しい、陶器の町。ぜひ、一度訪れてみて欲しい。

Friday, March 25, 2005

NCECA(エヌシカ) 2005

NCECA 2005を視察するため、2005年3月に、メリーランド州ボルティモアに行った。

NCECA(エヌシカ)とは、「The National Council on Education for the Ceramic Arts」 の頭文字を取ったもので、直訳すれば「全米陶芸教育協議会」と堅苦しい名前になるのだが、つまり陶芸教育に関わる様々な団体から構成された委員会が、毎年全米の中の一都市で開催する、陶芸の大イベントだ。

参加者登録を入り口で終え、IDを首にぶら下げた人々が最初に流れ込んでくるのが、ボルティモア・コンベンションセンターの出展者ブース会場である。全ての出展者が、商品・製品カタログ、情報誌、ポスター、商品サンプル、大学などは学校紹介だけではなく入学願書にいたるまで、テーブルにディスプレイし配布している。陶芸関係のあらゆる情報が嫌というほど得られので、目星をつけたブースだけでも情報で紙袋いっぱいになる。

コンベンションセンター内の別の会場では、ゲストアーティストによるワークショップやデモンストレーション、技術情報、陶芸史、陶芸教育などをテーマにしたレクチャーやパネルディスカッション、NCECAが企画した学生からの公募による展覧会などが盛りだくさんに行われている。

面白いアイデアだと思ったのは、著名な陶芸家や大学教授から募った作品をチャリティーオークションにかけ、集まった寄付金を各助成金や奨学金に当て、陶芸教育の普及と充実に貢献していることだ。

NCECAは基本的に、陶芸における教育的・学術的な目的を持っているが、それとは別の性格も併せ持つ。一般参加者はもちろん学生も、名刺やポストカード、自分の作品を収めたCDなどを片手に、積極的に「営業」をする。陶芸教育と陶芸ビジネスが直接向かい合う、ネットワーキングの場でもあるのだ。

陶芸教育の普及、発展、ネットワーク構築を目的としたNCECAは、毎年違う州で盛大に行われる。人もビジネスも、それに合わせて動く。おそらく、現代のアメリカ陶芸界を支えているのは、土の産地とか陶器の町といった「動かないもの」ではなく、人や情報やアートビジネスといった「動くもの・変わっていくもの」なのではないだろうか。

5日間(実質は4日間)の通しのチケットは約200ドル(外国人参加者用料金/2005年度)、インターネットでの事前登録が楽だが、当日券を直接購入することもできる。

NCECA ホームページ http://nceca.net/

Friday, February 25, 2005

陶芸ジャーナル書き始め

日本の陶芸ほど、歴史が途絶えることなく、産業として、また文化として円熟し、現在も活発に活動を続けるものは、おそらく世界中を探しても、他にないだろう。

大学・大学院で陶芸を学び、1996年から信楽で陶芸に関わって生活をした。

縁があって、2001年から2003年、アメリカ・マサチューセッツ州にある州立大学の陶芸科で陶芸を学び、その後バージニア州にある陶芸スタジオで制作活動をした。

帰国後、信楽に帰り、改めて日本の陶芸の素晴らしさを思い知らされた。

2005年、陶芸関係の仕事のため、アメリカに帰ってきた。今度は工芸文化の盛んな、ノースキャロライナ州。現在住んでいるシーグローブという町は、アメリカでも非常に珍しい、陶芸の町だ。小さな町の中に、約120軒の陶芸スタジオが建ち並び、生活に必要な陶器を作って、生活を成り立たせている。

また、幸運にも、昨年12月から約2ヶ月間、イギリス・ロンドンに滞在し、イギリス陶芸に関するリサーチを行うことができた。イギリスの陶芸もまた、違った文化の土壌があり、現在も陶芸家がしのぎを削る、興味深い国だ。

世界のどこに行っても陶芸に関わる暮らしをしつつ、その土地の陶芸家に出会い、さまざまな陶芸文化を学び、それでも日本の陶芸に思いを馳せ、日々の出来事を不定期に書き留める、そんなノートを作っていければ、と思う。